岩手県立大学 社会福祉学部 岩手県立大学 社会福祉学研究科

社会福祉学研究科

福祉 × 創造
― 教員の活動紹介 ―

福祉 × 実験心理学

桐田 隆博

赤ん坊が泣き止まぬとき

人間福祉学科 福祉心理系
教授 桐田 隆博(きりた たかひろ)

 私の研究領域は認知心理学と感情心理学にまたがっていますが、その手法の中心は実験です。その意味で、私の専門は実験心理学ということもあります。ここでは、これまでに実施した研究の中から、赤ん坊の泣き声に関する実験についてお話しましょう。

 赤ん坊の泣き声は、授乳、排泄の世話、抱っこ、添い寝などの養育行動を引き出すための重要な信号ですが、養育者の心理的・身体的状態によっては、真逆の対応、すなわち虐待行動を招いてしまうことがあります。それでは、人の内的特性や経験によって赤ん坊の泣き声の聞こえ方が異なるのでしょうか?

 そこで、まず、赤ん坊の泣き声を聞いた時に不快になる程度を測る意識尺度(物差し)を大学院生と一緒に作成しました。この尺度で測定した“泣き声不快度”は、他者の感情に対する感受性(伝染性)や共感性と関連することが明らかになりました。また、赤ん坊を抱っこした経験が“泣き声不快度”を低減することも示されました。

 次に、実際に赤ん坊の泣き声を2分間聞いてもらい、泣き声に対する認知的評価や脈拍の変化を測定しました。その結果、泣き声不快得点が高い人は、赤ん坊の泣き声に対して否定的な評価をすること、そして、ストレスの指標となる脈拍の一時的上昇も確認されました。

 やはり、赤ん坊の泣き声の聞こえ方は人によって大きく異なるようです。

 親になる前に赤ん坊の泣き声に対する感受性(不快度)をチェックすることで、自分の特性を把握し、危機的な状況を回避すること、それがこの研究の目標です。

赤ん坊が泣き止まぬとき